くろいぬの矛盾メモ

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青少年を守る、携帯フィルタリングよりも有効な手段


未成年が、親の目の届かない場所で不特定多数の成年と対面することは、
多くの青少年事件の発端となる。このことに、異論は全く無い。
子供の安全を守るためにも、未成年と成年の出会いは国を挙げて阻止すべきだ。


しかし、このような事件の芽を阻止する目的の、未成年向け携帯フィルタリング規制は、
非常に見当はずれの施策と言わざるを得ない。
犯罪と関係ないサイトまでも規制される、検閲や言論統制にも似たルールもひどい。
しかし一番許せないのは、この施策が未成年の出会い抑止には、非常に効果が薄いことである。


なので、これから非常にシンプルかつ有効な代替案を提示したい。


有害サイトフィルタリングよりも、青少年の事件防止により効果的で、
青少年自身もより納得できる方法だ。


※ちなみに、未成年フィルタリングとは、20歳未満のユーザーが公式サイト以外の勝手サイトや、
mixi、モバゲーなどコミュニティサイトにも一切アクセス出来なくなる、という規制のこと。
総務省の指導で、各携帯キャリアとも2〜3月に導入開始(未成年の新規加入者と希望者が対象)。
7月には導入完了(全ての未成年の加入者に自動的に適用)の予定だが、規制が厳しすぎるため緩和の動きもある。
詳しい顛末については下記参照。

【参考】「あまりに急」「検閲では」――携帯フィルタリングに事業者から不満続出 - ITmedia News



さて、携帯フィルタリングよりも有効な、青少年保護の手段。
その具体的な方法とは、


未成年名義の携帯電話にかぎり、
電話とメールの相手先に制限をかけること。


これだけだ。



詳しく、説明しよう。


1.未成年名義の携帯電話からは、原則的に自分と年齢差が
前後2歳までの相手としか、メールと電話の受発信が出来ない。


というルールを定め、法的強制力を持って、全てのキャリアに導入させる。
ちなみにこの年齢差という発想は、モバゲーが導入しているメール制限を参考にした。
しかし、これだけだと親兄弟との連絡も取れなくなってしまう。


そこで。


2.保護者からキャリアに届け出た電話番号とメールアドレスのみ、
 未成年の携帯端末との受・発信制限を解除する。


家族や親戚も含め、それ以上の年齢差の契約者との連絡が
必要な場合には、メールアドレスと電話番号をまとめて、親がキャリアに
対して申し込む。
すると、その相手とはメールも電話も出来るようになる。
多くのキャリアが導入している、「良くかける通話先の割引オプション」などと、
セットの仕組みにしてもいいかもしれない。
連絡先の追加も解除も、ショップに親と子供が2人で立ち会う必要がある。
※ここがポイント


そして、最後に。


3.ミニメール、フリーメール、メール転送、電話転送、1対1のチャット、伝言ダイヤル、
 ボイスメール、IP電話など、メールや通話の代替の機能を持つサイトへのアクセスと、メールの送受信を
 未成年に限りすべてフィルタリングする。


ようやくここで、未成年フィルタリングの出番。
これで、ほぼ完璧だ。



この方法のメリットは、たくさんある。


1.未成年の危険な出会いを阻止するのに最も効果的な方法である。

 → 仮に出会い系やコミュニティサイトが携帯から見られなくなったところで、
  家や学校やネットカフェのPCからアクセスすれば出会い系にアクセス出来てしまう。
  つまり、実効性が全く無い。
  すぐに電話やメールに移行してしまえば、もう阻止するものは無い。
  一方で、相手との携帯メールや通話が出来ないとなると、見知らぬ人との
  待ち合わせは非常に困難になる。

  携帯サイトを通じた出会いの抑止効果だけではなく、PCや街でのナンパなど、
  全ての接点において、抑止効果が非常に高い。
  どんなに文化が変わろうと古今東西、連絡先の交換こそが出会いの鍵だからだ。



2.親が、子供の学校外の交友関係を把握出来る。


 → 別に学校内で同年代の交友関係なら、子供のプライバシーを尊重してあげてもいいと思う。
  だが、年齢差がある知人との関係は、時には援助交際、恐喝、薬物使用、または
  暴力団との接点など、犯罪のきっかけになりやすい。

  そこを親がしっかり把握し、管理しておくことで、事前の予防が出来る。
  年齢差のある異性との交際を禁じているわけではない。
  年が離れている場合に限っては、しっかり親公認の交際にすべきだと言うことだ。
  また連絡先の追加を、親子同伴で携帯ショップに出向くというイベントにすることで、
  子供の交友関係についての新たな対話のチャンスが生まれるだろう。
  そして、何よりも子供の安全管理責任の根本を親が握る、という仕組みがすばらしい。



3.未成年にとって貴重な自己表現・コミュニケーションの場を奪わない。


 → 思春期に、自分の居場所を親や大人から、一方的に奪われてしまったら。
 そのトラウマ、恨みは、長く尾を引く。
 今の小中学生にとってモバゲーなどのコミュニティは、ドラえもんの空き地
 みたいなものだ。

 その空き地に、小学生狙いの変態が出没するからと言って、空き地自体を
 閉鎖してしまったら、子供たちはどう思うだろうか。
 さらに、携帯サイトのフィルタリングは、言論統制・検閲につながりかねない。
 そもそも、コンテンツ内容をドメインで判断するのは不可能だ。
 書籍で例えれば、成人向け雑誌を1冊でも出している出版社の書籍を、
 すべて未成年販売停止にするような、実に乱暴な方法だ。
 そして、別ドメインを立てればいい、という非常に抜け道の多い方法でもある。
 公式サイトしか表示されないというのも、コンテンツ業界の健全な発展を阻害する。
 世界に先駆けて発展した日本のモバイルコンテンツ市場は、強い国際競争力を
 秘めていた。そんな成長の芽をつんでしまうのは、国家としての大きな損失だ。



4.スパムやチェーンメール、個人情報さらしの抑止効果も


 年齢差があると届かないため、不特定多数へ送られるチェーンメールなどの
 迷惑メールの勢いを止める効果が期待出来る。
 また、掲示板やプロフサイトなどに個人情報を晒した際の被害を、最低限に
 抑えることが出来る。
 また、今も導入されているメール受信のドメイン指定は、未成年に限って
 デフォルトで外せないようにすべきだと思う。
 そもそも、今導入されようとしているフィルタリング規制では、PCのプロフ
 サイトに自分の携帯アドレスを書き込めば、簡単に出会えてしまう。
 通話とメールの受信規制の方が、圧倒的に抑止効果が高い。



リスクについても、分析してみよう。


1.未成年名義の端末が裏取引される可能性


この方法を採用した際に、もっとも警戒すべきなのは、
「女子高生と連絡可能な携帯回線、20万で売ります」「17歳名義の携帯端末、10万で買います」
などといった、未成年名義の携帯端末の高値売買である。
未成年名義の携帯は、非常に入手しにくいこととから、
借金のカタに自分の子供の携帯の名義を売る親や、小遣い稼ぎに
自分の携帯を回線ごと売る未成年が現れる可能性もある。
売買ともに特殊なケースなので、絶対数としては少ないだろうが、オークションサイトの
監視などを始め、法規制も含めて対策を考える必要があるだろう。



2.抜け道について


・未成年名義の携帯を大人が持つと、未成年にアクセス可能。
 → 今でも携帯名義が裏で売買されてるそうなので、あり得るだろう。
 回線単位での売買をされると、どんな規制をしても意味がなくなる。
 未成年フィルタリングだって、所有者名義が異なっていたら、効果が無い。


・大人名義の携帯を未成年が使っている場合は、効果なし。
 → 年の離れた彼氏などが、専用に買って渡してくれた場合は無効である。
 ただ、同年代と話せない大人名義の携帯だけを持つわけがないので、2台持ちになるだろう。
 これは、子供が見慣れない携帯を持ってないか、親が監視するしかない。
 未成年フィルタリングだって、所有者名義が異なっていたら、効果が無いのだから。


・メール転送サービスなどの、頻繁な監視が必要。
 → 必ず規制の網を潜り抜ける業者が現れる。電話からメールへの転送とか。
 ただし、サービス内容が限定されているので、有害サイトを見張るよりは簡単。


・その他
 技術面については、実現性なども含めて詳しい方のご意見を
 お待ちしております。



3.浪人生、留年生がかわいそう


例えば大学受験で3浪すると、現役合格した同期の新入生から、
メールや電話が受けられない。これはかなり悲しい。
まあ、2浪までに合格しないと大変、と思わせるのでいいことかも。
そもそも基準となる年齢を20歳未満ではなく、大学生や社会人になる
節目となる18歳未満にした方がいいのかも知れない。



そもそも、フィルタリング規制は、誰を何から守ろうとしているのか。


フィルタリングで未成年が制限されるのは、ネット上のコミュニケーション
と情報だけだ。
むしろ規制すべきなのは、リアルな出会いではないのか。


情報に規制をかけることの弊害も気になる。
コミュニケーションの場や、サークルを取り上げられた子供たちは、
人間関係の悩みや、恋愛や性の相談をどこでするのだろうか?


フィルタリングを抜けてくるのは、高度なスパムテクニックを持つ裏サイト群だ。
健全化に年間数億をかけるような優良コミュニティサイトへのアクセス制限された
子供たちは、必死に見つけ出した怪しげなスパムサイトに溜まるようになる。
つまり、地下に潜るだけなのだ。


四角四面な、ドメイン単位でのサイト規制は、スパム業者には全く効力が無い。
第一、ドメインとコンテンツは、全く何も関係ないはずだ。
著名な芸能人や文化人のブログだって、ある日突然に有害情報サイトに
早変わりする可能性を常に秘めているのだ。


本来は、義務教育でネットリテラシーを教えて、親がもっと子供に関心を持てばいいだけのこと。
画一的な規制に実効性は無く、アクセス可能な場所を求めて子供たちがより暗い深みへ潜るだけ。
禁酒法で、密造酒を作るマフィアの収入だけが潤ったのと同じ構造だ。



前から、何度も言っていることがある。


「ゲーム禁止の家庭、その後は」という記事へのブックマークコメントで書いたことだ。
http://b.hatena.ne.jp/entry/http://komachi.yomiuri.co.jp/t/2007/1204/158943.htm


悪書を禁止するだけで、しつけが出来ると思うのは親の怠慢だ。
子供は、隠れて楽しむだけである。
それよりも、悪書の代わりに、面白くてためになる広いジャンルの良書を
山ほど与えてやれば、悪書にハマらない。
媒体を超えて、子供に良作を教えてあげるのが親の役目なのだ。



あなたは、子供に見せてもいい健全な携帯サイトをいくつ知っていますか?
モバゲーの代わりになる、子供たちの居場所を教えてあげられますか?
そんなことも知らないで、政府と携帯キャリアにまかせっきりにしていいんですか?


綺麗なものだけしか見せないように、温室の中で育てた子供が、
成年になった途端に親元を離れ、猛獣のいる野に放たれる。
何の情報も無く、予備知識もなく。こっちの方がよっぽど怖い。


ここまで見当違いな施策を、政府と通信キャリア主導で進めようとしているのは、
既得権益のための締め出しなど、他に意図があるんじゃないかと勘繰ってしまう。
NGNとかのこともあることだしね。


■追記

モバゲー、ついに「健全サイト」として認定:MarkeZine(マーケジン)
http://markezine.jp/article/detail/5398

「モバゲー」と「en 高校生」、EMAの“健全サイト”認定
http://internet.watch.impress.co.jp/cda/news/2008/09/16/20870.html

EMA、モバゲーなどを「健全サイト」認定 - ITmedia News
http://www.itmedia.co.jp/news/articles/0809/16/news097.html

わざわざフィルタリングを導入して、なおかつモバゲーを健全と認めた流れには、
非常に違和感を感じる。もっと言えば、大きな利権の流れを感じる。
これでは、モバゲー内での全ての活動がお墨付きをもらったようなものじゃないか。

サイトが危ないんじゃない。サイトが不健全なんじゃない。
子供との出会いを求める大人が、危なくて、不健全なんだ。
直接接触の根っこさえ絶ってしまえば、子供の文化や好奇心をつぶすことなく、
多くのことが解決出来るというのに。