くろいぬの矛盾メモ

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学園ものの主人公が片親または高校生で一人暮らしな理由


学園もののライトノベル、マンガ、ゲームの主人公(男子高校生)
の設定には共通点があります。
 
 
昔から良くあるパターンが、以下の3つ。
 
 

  1. 怖いとか無愛想だと誤解され、クラスの皆からは敬遠されている。
  2. 家庭の事情が複雑で、高校生なのに一人暮らし、もしくは片親。
  3. 女性は苦手だけど、近所に世話焼きの幼ななじみ、隣に住む可愛い同級生、またはブラコンの妹や姉がいる。

 
 
 
これらの主人公の設定は、すべてがライトノベル、マンガ、ゲームの読者層が抱えている、
「人間関係」、「自立」、「恋愛」
と言う3大コンプレックスと、うまく折り合いを付けられるように計算されています。
 
 
つまりこれらの主人公設定は、ごく平凡で内向的な読者が
自己正当化をするための言い訳なのです。
 
1.「クラスで敬遠」は、自分が周囲となじめない理由を正当化しています。
 
「俺がクラスとなじめないのは、(主人公と同じく)自分を表に出すのが
下手で周りに誤解されてるから」という言い訳が成り立ちます。
「俺はそのままでいい。理解してくれない周囲が悪い」という自己肯定につながり、
心の負担を軽減してくれるわけです。
 
 
2.「片親、一人暮らし」は、自立していない理由の正当化です。
 
あなたが知っている学園ものの、主人公が片親 or 一人暮らしである率を
考えてみてください。驚くほどの比率になっています。

ライトノベルに見る親子関係の稀薄さ
http://d.hatena.ne.jp/hobo_king/20070613/1181724840


そして大半の作品では、これらの複雑な家庭環境は単なる舞台設定、
キャラ設定であり、物語の中核となるテーマにはされていません。

この設定には、2つの目的があります。
ひとつは、物語を進めやすいという書き手の都合、そしてもうひとつが
この記事のテーマである「コンプレックスの正当化」です。
 
単に片親だったり、高校生で一人暮らしという設定だけで、自立心が強そうに見え、
思春期の恋愛描写や非日常的冒険の邪魔になる、親の心配や家族への甘え属性が
軽減されるのです。
さらに、家庭環境が複雑な読者には共感を与え、普通の家庭で育っている読者には
「いざとなったら俺だって出来る」ということで、今の時点で自立できていない
読者自身の言い訳にもなるわけです。
つまり、「俺が苦労しているのは(主人公と同じく)家庭環境が複雑だから」、
「俺が自立できてないのは、(主人公と違って)うるさい親がいるから」
という言い訳が成り立ちます。
 
 
3.「女の幼なじみ、ご近所、ブラコン姉妹」は、モテない理由の正当化です。
 
学園もののラノベ、マンガの主要読者層は、たいてい女性とのコミュニケーションが苦手です。 
だから、女性の扱いがうまい普通の男を主人公にすると、物凄いバッシングが起きます。
かといって女性が苦手な主人公が、学園ハーレムを築いてしまうのはリアリティが無さ過ぎる。
だから、努力ではどうにもならない生まれつきの環境や、巻き込まれ型にする必要があるわけです。
つまり、「俺が女と接するのが苦手なのは、(主人公と違って)可愛い幼なじみや、
隣に住む同級生や、優しい姉や妹がいないから」と言う言い訳が成り立つわけです。
 
 
このように学園ものの主人公像というのは、今の自分がダメな理由を、
自分の努力以外に責任転嫁しやすい設定にすることで、読者層の立ち位置
や性格を大きく改善しなくても、夢を見られる構造になってます。
 
 
 
さらに、「日常を変えるきっかけ」というのも、常に外からやってくるイベントです。
主人公自身は、いつでも完全に受け身の立場。
これが、空から女の子が降ってくる、的な巻き込まれ型の典型です。
  
 
 引越し、転校、絡まれる、許婚、勧誘される、手違いで選ばれる、親の借金のカタに、
 実は特別な血を引いている、海外の親父から荷物が届く、跡継ぎ、事故にあって生き返る、
 道端で何かを拾う、動物や老人を助ける、子供の頃の約束、異世界召還、etc
 
  
これもつまり、「俺が変われないのは、きっかけが無いから」という言い訳になります。
ファンタジーの特徴は、努力や継続ではなく、無自覚の出自やきっかけ至上主義であること。
  
ある日、主人公が思い立って日常の生活パターンを改善する努力をし、
積極的に行動をしたら、半年後には友達や彼女が出来た、
なんて話は絶対に売れません。
リアル過ぎて、夢が見られないから。
 
 

まとめます。 
 
共感を得る主人公像は、ダメな自分の境遇やコンプレックスを正当化してくれて、
さらに幸運が舞い降りたら夢が見られる設定。
 
これが、共感を得るための主人公設定のポイントです。
 
 
この辺りをおさえておけば、中高生だけじゃなく、中二病患者全般に受ける
主人公が作れるのではないでしょうか。
  
解決するコンプレックスを、「職場の人間関係」、「収入と自己実現」、「恋愛と家庭(結婚)」
などに変えてみると、大人向けの魅力的な主人公像も作れるかも知れませんね。
 


続編です。わかりやすい解説付き。
■[恋愛][創作]男を奮い立たせる「魔法の言い訳」 (続・学園ものの主人公が片親〜)

http://d.hatena.ne.jp/shields-pikes/20081124/p1


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