くろいぬの矛盾メモ

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今すべきことは、自分というコンテンツの「届く化」


■選ばれし者の生き方、一般人の生き方


梅田望夫の言う、好きなことだけを貫いて生きればいい、というのは、多くの人が認めるスペシャリストになれば金を持ったジェネラリストが自分を見つけてくれると言う、近代主義的な理想論の延長にすぎない。


現に、高レベルのスペシャリストを目指す多くの人が、自分の実力を評価してくれる、自分を見つけてくれる人が現れるまで、先の見えない努力を続けることに疲れ果てている。
しかも毎日の仕事の中でチャンスをつかむためには、年中気を張っていないといけない。ライバルも多い。ちょっと手を抜いたところを見つかったら、今まで積み上げて来た信用が一気になくなるかもしれない。


例えるなら、昔好きだった同級生を街で偶然見かけたが、その時の自分がジャージ姿だったので声をかけずに逃げた……、そんなことがあってはならないのだ。
スペシャリストへの道は遠く険しく、どんなに好きなことでもひとつのことを高い緊張感とモチベーションで続けることは、誰にでも出来ることではない。
これは、組織の中で出世するのもそうだし、フリーランスとして業界内で名を売るのも同じことだ。




これに対する反論として、分裂勘違い君は「その時々にやりたいことを、好きなようにやれるのが一番幸せだよ」という甘い言葉をささやいた。
「好きを貫く」よりも、もっと気分よく生きる方法 - 分裂勘違い君劇場


好きなことでも一生続けるとなると辛いんだよね。そうそう! そうなんだよ!
「自分が好きで始めた仕事だろうが! 弱音吐くんじゃねえ!」なんて言われても、始めたときはこんなに辛くなるなんて予想してなかったし、今から他の職種に移るのも怖いし、もうこれしか出来ないんだよ。


でも、ちょっと待てよ。これは「好きなときに好きなことをやる人生」にシフトしませんか、って言うお誘いか?
それって、今までの地位や努力を捨てて、道半ばであきらめるってこと? そりゃ、勘違い君はすでに一個人としてコトを成しているし、なんか仕事のつてもありそうだし、生活に困ることもなさそうだけど。
無理だ。俺は無理だ。でも、勘違い君のエントリーを否定すると、勘違い君が片手間でやってることに一生かけて全力で(まあモチベーション下がってるし、休み休みだけど)取り組んでも結果が出せてない奴のひがみみたいになっちまう。


勘違い君のような生き方をするには、卓越した対人コミュニケーション能力が必須だ。
自分のビジョンを周囲に伝えて理解者や協力者を集め、やりたいことを思い通りに実現していく力が無ければ、こんなキャリアは歩んで来れない。

ひと言で言うと、「どっちの生き方も、選ばれし者の生き方で、一般人の参考にはならない」。
そう言うことになると思う。
「5つの罠」のエントリーでも書いたように、どちらも一般人がどう生きるか、という問いに、現実的な答えを出せていない。


このエントリーでは、「選ばれていない者」が、どうやって生きていくか、について考え、具体的な答えを書きたいと思う。
つまり、高い専門性も、高いモチベーションも、高い対人コミュニケーション能力も持っていない人が、どう生きるかだ。



ゴッホとシンデレラ


ゴッホは、生前たった1枚の絵しか売れなかった。しかも、買ってくれたのは身内だけだ。


現代のゴッホは、そこかしこにいる。もちろんゴッホと比べるほどのレベルじゃないが、理解されない天才は多い。
ニコニコ動画の「もっと評価されるべき」や「才能の無駄遣い」などにカテゴリ分類される動画を見て、思うはずだ。センスや方向性はともかくとして、これだけの技術を持つ人が、何故評価されていないのか、と。
テレビなどで紹介される各分野のアーティストより、よっぽどこっちの方が面白いじゃないか、と。


彼らが世に出ない理由は明白だ。
埋もれた才能の持ち主は、自らの才能を発揮したコンテンツを流通させるチャネルを持っていない。
もしくは、持とうとしていない。ただ、それだけのことだ。



やりたいことをやりたいときにやる。
分裂勘違い君がそれを実現出来るのは、自分の得意な各分野の流通チャネルをすでに確保しているからだ。
決して現時点のコンテンツの質が高いから、専門性が高いから、だけではない。



一個人として、コトを成していない人。一個人としてコトを成そうとする時、方法がわからない人。
彼らは、みな自分にあった流通チャネルを持っていない。
梅田望夫は持っている。ひろゆきは持っている。分裂勘違い君も持っている。
それが、我らと彼らをわける違いだ。


たとえ絶世の美人でも、家で白馬の王子様を待っているだけじゃ、絶対に巡り会えない。
魔女というプロデューサーを得て、舞踏会に行けば、灰かぶりのシンデレラですらチャンスをつかめるのだ。



■必要なのは「まっすぐ届ける力」だ


じゃあ、どうすんの。
その流通チャネルとか人脈とかって、どうやって手に入れるの?
それじゃウェブ時代になっても、磨くべきなのは、相変わらず自分を売り込む方法、アピール術、営業力なの?



答えは、イエスだ。
優れた技術やセンスをもっていても、誰からも認められなければ何の意味もない。
どんなに質の高いコンテンツでも、誰にも届かなければ何の意味も無い。
どんなに優れたビジネスモデルで事業を始めても、顧客や出資者まで届かなければ全く意味がない。

専門情報やツールが低価格化し、個人の趣味レベルなら、誰もが好きな分野で好きなことが出来るようになった時代だからこそ、今必要なのは「届ける力」だ。
しかも、正しいターゲットに、正しい方法で届ける力。これを「まっすぐ届ける力」と呼ぼう。
「まっすぐ」と言う意味は、「正しい相手に」、「そのままの内容を」、「正しい方法で」と言う3つの意味だ。
だましのテクニックは極力使わない方がいい。一見さんに売るんじゃない、あなたの理解者を探すことにもつながるのだから。


あなたを、他の人と差別化するのは、「まっすぐ届ける力」。それだけ。


これは、スペシャリストに限らない。もっと言えば、仕事をしている人に限らない。
自分の業績を上司に認めてもらうのも、好きな人に気持ちを伝えるのも、同じ趣味の仲間の尊敬を集めるのも、みんな同じことだ。



極論してしまえば、コンテンツ自体なんてそれほど大事じゃない。


市場が成熟した競争が激しい分野なら、コンテンツは良くて当たり前だし、良いだけじゃ売れない。
市場が若い分野なら、新しくて話題性があれば、コンテンツはショボくても売れる。



それに、ブログやケータイ小説の流行でわかったのは、他人の人生、他人の考え、他人の文章はそれだけで面白いってこと。
良いコンテンツなんて、誰かに届けたいと言う思いさえあれば、誰でも作れるということだ。


それでも人気のあるブログと、そうじゃないブログがある。
それを分けるのは文章力や内容の質じゃない、ってことはみんな気付いてるだろう。
要は、話題になる力、だ。
今、高視聴率の番組は、ベストセラーの本は、ヒットチャートの音楽は、それほど優れたコンテンツか?
結局は、好きなことを貫いても、ターゲットに「まっすぐ届ける力」が無いと意味がない。


つまりは、営業力。プレゼン力。コミュニケーション能力だ。
梅田望夫にいたっては、けものみちを生き抜くために必要なのは人間的総合力、とまで言っている。
そりゃ、ハードル高いだろ。


だが、ここでがっかりした人。うんざりした人。
あなにこそ大きなチャンスがあるのが、ウェブ時代の素晴らしさなのである。



■ウェブ革命は「引きこもり革命」だ


かつて、自己実現の方法は、ほぼ全て対人コミュニケーション能力に集約されていた。
もちろん今だって、そうだ。
学校や会社や地域で人気者になったり、大役を任されたり、出世をしたり、大儲けをしたり。
対人コミュニケーション能力が高くなければ、そんなこと出来はしない。


しかし、今はウェブがある。
道具は身体機能の外延(例えば、「孫の手」は手の機能を外側へと拡張する道具)と言われるが、
ウェブは、何よりも個人のコミュニケーション機能そのものを補助し、拡張するものだ。
人に対して直接コミュニケーションを取るしかなかった手続きや情報交換や商取引が、ウェブ時代以後は、
プログラムを介して処理出来るようになった。
例えば、ネットショップ。ネットバンキング。ネット証券。そして、掲示板やブログ。
さらには、オークション、アフィリエイトリスティング広告コンテンツマッチ広告の出稿、
もちろん、出会い系もそうだ。
これらの「非対面サービス」は、対人コミュニケーションにあまり自信がなかったり、面倒に思えてしまう層に対して
大きなチャンスを開いた、まさに革命と言える。



今まで、ウェブ革命についての多くの考察では、人的効率とコストの改善面からしか語られて来なかった。
ウェブは、人手を機械に変えることで、人件費を削減する革命。そして、そのことによるコスト革命。
だからこそ、無料のサービスが提供される。個人でも流通が可能になる。
そんな視点でしか、捉えて来なかった。


この視点は当然正しい。実際、今までのウェブはこの方向性で進化して来た。
しかし、今あえて僕はもうひとつの側面にこそ注目したい。



ウェブ革命は、実際に人と対面しなくても、不特定多数の人とのコミュニケーションを
可能にした「非対面革命」である、と。


そうだ。
極端なことを言えば、「引きこもり革命」だ。
マスメディアやウェブに関する書籍や大手のネットニュースに登場するような発言力のある多くの人間は、高いコミュニケーション能力を持っており、こんな軟弱な発想は、思いつきもしなかったかもしれない。
だが、この側面こそが徐々に世界を変えようとしているのだ。



自分の才能を世に売り出す場合を考えてみよう。
かつては、所属している会社の営業力やフリーの人脈がなければ仕事が取れなかった。
今は、mixi、ブログ、ニコニコ動画など、対面コミュニケーション能力が低くても、
才能をアピール出来る機会は山のようにある。


もちろん、「まっすぐ届ける」上で、コミュニケーション能力自体が不要になったわけではない。むしろ必須である。
ただ、対面でのコミュニケーションが苦手な人にも、ウェブ上での非対面コミュニケーション能力を生かすという方法があるよ、というお話である。



次に、人気のあるサイトからの広告収入など、ウェブ上でビジネスをする場合について、考えてみよう。
ビジネスの仕組みを表す言葉として、BtoB(企業 対 企業)とBtoC(企業 対 個人)というものがある。
さらに現在は、様々な「非対面サービス」の充実により、直接担当者と顔を合わせることなく、
個人によるCtoC(個人 対 個人)やCtoB(個人 対 企業)のビジネスが可能になって来ている。


もちろん、今でも非対面コミュニケーションは、対面でのコミュニケーションと比べると、多くの面でかなり非力だ。
大きな提携や、有利な条件の交渉、値引きなどは、担当者間の信頼関係が第一で、今でも対面じゃないと無理だろう。


人気ブログの広告掲載に関しても、大手になれば代理店が声をかけてくる。直接掲載を持ちかけてくる企業もあるだろう。
だが、わざわざ資料を作って打ち合せをする工数をかけて、苦手な営業力を発揮しないと良い条件が引き出せないのであれば、多少条件が悪くてもアフィリエイト広告を貼り付けておいた方がよほど効率的だ。


対面コミュニケーション能力が要らない時代が来たわけじゃない。
はっきり言って、非対面では企業を動かすことは出来ない。内側からも、外側からも。
対面コミュニケーション能力が高くないと、いくら技術や才能があっても会社組織内で出世するのは難しい。
組織というのは、ジェネラリストが動かしていくものだからだ。


だが、対面コミュニケーション能力がない人も、非対面の力を身に付ければ報われる時代が来たということだ。



■「空気が読める日本」の未来


「空気読め」「空気嫁」「KY」。
最近、良く言われる言葉だ。


日本の学力は先進国の中でも思いっきり低下。その代わり、空気読み力は世界一というニュースもあった。
だが、自分はこの記事を読んで、「頼もしい」と思ってしまった。


分裂勘違い君も、以前のエントリで述べていたが、相手との利害関係を把握する力だ。
これってそのまま、営業力やマーケティング力などの、相手に「まっすぐ届ける」ための
コミュニケーション能力と直結する。
そして、そこには対面と非対面の区別などない。


「神」と呼ばれるようなレスを返す能力、祭りを盛り上げる能力、炎上を回避する能力、
それらは全て、空気を読む力だ。
あなたが自分というコンテンツを届けようとするステージ、その場の空気を読む力が必要だ。


家庭、教室、職場、電車の中、会議室、mixiの足あと……。
そんな狭い場所の空気ばっか読むから、ダメなんだ。
もっと広い世界の空気を読め。


我々の「届ける力」は、もはや直接対面でのコミュニケーションなんて超えている。
読むんなら、ネットの空気を読めばいい。日本の空気を読めばいい。
時代の空気を読めばいい。10年後の世界の空気を読めばいい。


そこまでの力がなかったとしても、自分が届けたいたった1人の人でいいから、
しっかり想いが届くように、相手の周りの空気を読めばいい。
マーケティングだ、ターゲティングだ、と言う呼び名は腐るほどある。
要は、届けるべき人に「まっすぐ届ける」能力だ。
それが、ニッチなサービスでも、マニアックな作品でも、世界を動かすようなアイデアでも。
相手が、100人でも、1億人でも、全世界の人間でも、未だ見たことのないたった1人の運命の相手でも。


そんなのは、自分の欲求レベルに従えばいい。
全世界の数百万人がブログに貼り付けたくなるような、時代の空気を読んだイラストを毎日配信するのもいい。
一生かけて、多くの人が笑っちゃうような下手な絵を真剣に描いたとして、でもそれが世界のどこかにいる
本当に理解してくれるたった1人の人に届けば、そういう人生もそれはそれでいいじゃないか。


何も、理想論を言ってるわけじゃない。
届ける相手さえ間違っていない限り、あきらめずに届ける力を磨いていけば、きっと叶うことだ。
どんなにコミュニケーションが苦手な人だって、ネットにつながれば、数億人とコミュニケーションするチャンスを持つ。


逆にネットが苦手だったら、従来型のコミュニケーションを取ればいい。
それだって、会社組織に縛られる必要はない。
対人能力が高ければ、起業するのもフリーになるのも圧倒的に有利だ。
セミリタイアして沖縄に移住し、タダ同然で古い民家を借りて、畑で取れたものを近所の人と交換しながら月10万円で生きる。
対人コミュニケーション能力が高ければ、そんなことだって可能だ。


届けるコンテンツなんて、どうだっていい。
自分の好きなこと、どうしても伝えたいこと、くだらないこと、ちょっと思いついたこと。
なんでもいい。いつでもいい。しょぼくたっていい。


金儲けがしたければ、多くの相手が欲しがっているコンテンツを考えればいい。
自分を理解して欲しいだけなら、素直に自分をさらけ出せばいい。
大事なのは、コンテンツを作る想いと同じレベルで、誰かに届けるための方法を意識することだ。


届ける力さえあれば、人生は開ける。人生は楽しくなる。そういう時代だ。
そしてその届ける力は、ありがたいことに直接の対人コミュニケーション能力とは無関係だ。



■届けたいという強い気持ちがあれば、いつかは誰かに届く


そろそろ、まとめていきます。
このエントリーで言いたいことを、箇条書きで羅列してみました。


★届けたい相手に正しい方法で届ける力、すなわち「まっすぐ届ける力」が最重要。
★そのため、自分というコンテンツの「届く化」をすべし

  1. 自分が届けたい『モノ、コト』を見つける
  2. 届けたい『相手』を正しく定める
  3. 自分にあった届ける『手段』を身につける
  4. 自分が力を発揮しやすい『ステージ』を見つける
  5. 届くまで『あきらめない』


・ウェブ革命は「非対面革命」。話し下手でも「まっすぐ届ける力」を持つことが出来る。

  • 対人コミュニケーション力がなくても、お金を集められる。ビジネスが出来る。
  • 対面営業力がなくても、ものが売れる。自分を売り込める。


・ コンテンツはなんでもいい。ただし、届ける相手を間違えてはいけない

  • 既に好きなこと、得意なことがあれば、それをコンテンツにすればいい
  • コンテンツを持たない人間はいない。ありふれた経験なら、同じような多くの人から共感を得られる
  • 自分を求めている人を探し出すことを心がける。押しつけはダメ。ストーカー、カッコ悪い。


・ まっすぐ、とは?

  • 届ける相手を間違えない
  • 内容が曲解されないように届ける
  • だましの手段は、極力使わない方がいい

どんなに優れた才能を持っていても、他の人の目から埋もれていては意味がない。
どんなに素晴らしい作品を作っていても、自己満足では淋しい。
かと言って、無理して興味のない人に見せたところで、冷たいリアクションしか得られない。
自分が望む「届けるべき人」に、まっすぐ届けなければ意味がない。


自分が望む、そして自分を受け容れてくれる相手なら、誰でもいい。
家族でもいい。知人でもいい。ニコニコ動画の視聴者でもいい。
1人でもいい、10億人でもいい。
自分が届けたいものを、届けたい相手に、まっすぐ届ける能力。
これだけあれば、全てうまく行く。


とりあえず何をしていいかわからない人は、

  • 自分は、誰に自分を知って欲しいの?
  • 自分が得意な、人に何かを届ける方法って何?
  • 自分が実力を発揮出来るステージってどこ?


っていう自問自答から始めればいいんじゃないかな。
何も思いつかなければ、ブログでもニコニコ動画でも2ちゃんねるのスレッドでも路上ライブでも、とにかく発信してみればいい。
大事なのは、「まっすぐ届ける」能力を磨くこと。


ただし、空気を読むのを忘れずに。
伝えたい相手の周りの空気と、伝える場所の空気と、
そして、もっと広い今の時代の空気を。